「サチュレーションをかけると音が太くなる」
「倍音が足されて前に出る」
よく聞きますが、倍音が足されるってどういうことでしょうか。
EQで高域を上げるのとは何が違うのか。そもそも何が起きているのか。ここを押さえると、使いどころの判断がかなり楽になります。
サチュレーションは「歪ませる」こと
名前が難しいだけで、やっていることは軽く歪ませることです。
昔のアナログ機材は、入力を上げていくと、ある地点から素直に音量が上がらなくなりました。
信号の形が少しずつ押しつぶされて、元の波形から変形していく。これが飽和(サチュレーション)です。
面白いのは、この変形が耳に心地よく聞こえたことでした。
だからデジタルになった今も、わざわざその挙動を再現したプラグインが使われています。言ってみれば、昔の機材の欠点を懐かしんで真似しているわけですね。
歪むと、なかった音が生まれる

ここが一番のポイントです。
波形が変形すると、元の音には入っていなかった高さの音が新しく発生します。これが倍音です。
元の音が持っている高さの2倍、3倍、4倍……という位置に、新しい成分が積み上がっていく。
人間の耳は倍音の量で「太さ」や「明るさ」を感じるので、結果として音がリッチに聞こえます。
音が何でできているかという話は位相とは?やデジタル音声はモザイクで考えるとわかりやすいあたりとも地続きです。
EQとは根本的に違う

EQはすでにある成分を増やしたり減らしたりする処理です。
元の音に高域が入っていなければ、いくら高域をブーストしても出てきません。あるものしか動かせない。
対してサチュレーションは、なかった成分を作り出します。
だから「EQで高域を上げても明るくならない」ような、もともと成分が薄い素材に対して効きます。
\あるある〜/ こもったシンセにEQをかけまくってもスカスカになるだけだったのが、サチュレーションを薄くかけたら一発で解決した。
これは「ない音は増やせない」というEQの限界にぶつかっていたケースです。
どのくらいかけるのか

初心者がまず知りたいのはここだと思いますが、答えは思っているよりずっと薄くです。
理由は2つあります。ひとつは、サチュレーションも音量を上げる処理なので音量が大きい方を良く感じる錯覚が起きること。
もうひとつは、歪みは戻せないことです。EQは後から戻せますが、歪ませて失った情報は返ってきません。
目安としては、バイパスしたときに「あれ、ちょっと物足りないな」と感じるくらい。
オンにして「おおっ」となる量は、だいたいかけすぎです。
=三。・o・)ノ 1トラックずつは薄くても、全トラックにかければ合計は結構な量になります。そこも含めて控えめに。
どこに使うと効くのか
- ベース:低音は小さいスピーカーで再生されません。倍音を足すと、スマホでもベースラインが聞こえるようになります
- ボーカル:密度が上がって前に出ます。ただし歯擦音も一緒に強調されるので控えめに
- キック:アタック感が増して、埋もれにくくなります
- 曲全体:まとまり感が出ますが、ここでやりすぎると全部が台無しになるので最後の仕上げに少しだけ
ベースの例は特にわかりやすいです。
50Hzはスマホのスピーカーでは物理的に鳴りませんが、その倍音である100Hz・150Hzは鳴る。だから倍音を足しておくと、低音が出ない環境でも「ベースがいる」と認識してもらえるわけですね。
初心者がやりがちなミス
- 音量差で判断する:かけると音量が上がるので、必ず出力を下げてから比較してください。そうしないと全部「良くなった」に聞こえます。
- 全トラックにかける:一つひとつは薄くても、積み重なると曲全体が濁ります。効かせたいトラックを絞りましょう。
- 書き出してから後悔する:歪みは元に戻せません。迷ったら薄め、あとで足す方が安全です。
まとめ
- サチュレーションは軽く歪ませる処理。波形が変形する
- 変形によって、元の音になかった倍音が新しく生まれる
- EQは「あるものを動かす」、サチュレーションは「ないものを作る」
- かけ具合は、バイパスして物足りないくらいが適量
- 歪みは戻せないので、迷ったら薄く
次はトランジェントの話です。
音の「アタック感」を決めている、最初のほんの一瞬についてです。